アドラー心理学とは

アドラー心理学は、オーストリアの精神科医であるアルフレッド・アドラー (A.Adler)が創始し、その後継者たちが発展させた心理学の理論、思想と治療技法の体系です。


A アドラー心理学の理論について


アドラー心理学の理論的な特徴は

以下の5つです。


1)全ては自分が決めている


たとえば、、、


この親に育てられたから、性格が暗い。


など、過去の出来事が、今の私を決めたかのように考えるのが一般的な考え方だとすれば、アドラー心理学では、「自ら」が暗いを性格を選びとっていると考えます。その方が本人にとって都合がいい、もしくは、得しているので、自らが暗い性格を選びとっているのです。


これは、大変革命的な考え方です。自分が全てを決めることができるという立ち位置に入ると、自分はどんなときでも被害者になることはできません。私の人生は私が全て責任をもって管理し、何ひとつ他人のせいにしない、運命をすべて自分の責任で引き受け、自分で考えて行動する、という考え方です。


2)全ての行動には目的がある


人間が行動するには理由があるというのは、大方の人が受け入れる考え方でしょう。

その行動の理由=原因と考えるのが多くの心理学の立ち位置です。一方、アドラーは行動の理由=目的であると考えました。


たとえば、こどもの不登校について考えてみましょう。


不登校の原因を考えると、、、

・先生と気が合わない

・勉強がわからない

・家庭不和

・友達がいない


などの<原因>があったとしましょう。しかしながら、これらは自分で解決できることとできないことがあります。また原因が組み合わさって問題がこじれていることもあるでしょう。いくら頑張っても、この原因を取りのぞくことはできないのです。


一方、不登校の<目的>を考えてみましょう。この子は結局どうなりたいのでしょうか。アドラー心理学では、原因にフォーカスせず、目的にフォーカスするのです。原因

があって現在があるのではなく、目的があるから今がある。その目的(=未来のビジョン)を知れば、今の自分を知ることができる、と考えるのです。未来のビジョンがあまりにも実現不可能なものなら、そのビジョンを修正すれば、今の行動も変わるかもしれない。アドラー心理学ではそう考えるのです。


3)内的葛藤はない


あなたがダイエットしているとしましょう。

「食べちゃいけないとわかってるのに食べてしまった」というのは、言いたくなるフレーズですね。


アドラーは言いました。


「言葉ではなく、行動をみよ」


なぜならば、その目的は1つだからです。


意識と無意識、欲望と理想、良心と邪心  などそれぞれが、ちがう動き(分業)しながら、私が私の生命活動を維持している、とアドラー心理学では考えています。言葉の言い訳は、「自己欺瞞」といって、自分が自分の言い訳に騙されているのです。


クルマを例にすると、わかりやすいですね。クルマにはさまざまな部品があります。部品は分業していますが、対立はしていません。各パーツが分業し、協力して目的地に向かっています。これと同じように、まるっとした私が、内的葛藤なしに、目的に向かって心身を動かす、とアドラー心理学では考えています。


4)客観的に事実にどう意味づけするか


会社で

「あなたとの契約は今月いっぱいで打ち切ります」

と言われたとしましょう。


あなたはどう思いますか?


「困ったな」「かっこわるい」

「家族になんと言おう」「できない自分」


とマイナスの意味づけをすることもできます。


一方、

「独立への背中をおしてもらえた」

「チャンス到来」

「次が楽しみだな」


というプラスの意味づけをすることもできます。


アドラー心理学では、ある事実に対して、人それぞれが主観的に意味づけして、その事実を見ていると考えます。その事実に対してどんな感情をもち、どう考えるのかは、その人次第です。アドラーは、このことを「かのように」(=as if)と表現しました。ある事実は、人によって、不幸かのようにも見たり、幸福かのように見ているのです。


5)心は自分の中にない


ある中学生がいたとします。おばあちゃんとは仲良しです。よく話をします。母親には暴力をふるいます。身体的な暴力のときもあれば、言葉の暴力のときもあります。友だちは仲のよい友だちとそうではない友だちがいます。


さて、この子はわるい心の持ち主でしょうか?それとも良い心の持ち主でしょうか?


アドラー心理学では、私とあなたの関係の中に心があると考えます。ですから、この中学生の場合、おばあちゃんとの関係はよく、適切なコミュニケーションのパターンがあるのでしょう。他方、母親との関係はよくなくて、不適切なコミュニケーションのパターンがあるのです。そのパターン(冗長性)を見つけて、関係をよくしていこうとするのがアドラー心理学の考え方です。


人は社会に組み込まれた存在であり、全ての問題は対人関係の問題であるとアドラー心理学では考えています。


B アドラー心理学の思想について


アドラー心理学は思想を持っています。
それは、「共同体感覚思想」と呼ばれるものです。

多くの心理学では、クライアントのニード(クライアントが達成したい目標、悩み)を満たすことを最大の目標に掲げています。一方、アドラーは共同体感覚の育成を最大の目標に掲げています。共同体感覚とは、まわりの人々の関心に私の関心をよせて、まわりの人々のために私ができることをしていこうという考えのことです。そのためには、自分には能力があって、まわりの人々は仲間だと考えることが大事なのです。わたしたち人間は、社会に組み込まれている存在ですから、1人では生きていくことはできません。たくさんの貢献の支えの中で生きています。ですから、わたしたちもまわりの人々に貢献しなければなりません。共同体感覚は、まわりの人々に関心をよせて、人々のために自分にできることをしていくことで養われていくものと、アドラー心理学では考えています。